TDC2019の感想

カテゴリー: blogデザインフォント オン 2019年5月3日

四年ぶりの東京TDC賞

先日銀座グラフィックギャラリーで開催している東京TDCの展示会を見に行きました。
展示を見に行くのはかれこれ4年ぶりくらいとなってしまいました。四年前に見たときは、新鮮味を感じることが出来なかったということや、忙しい日が続いたというのもあったように思います。

四年たってどのようなデザインが出てくるのか楽しみな気持ちと不案な気持ちが入り交じっていました。
ギャラリーに入って最初に目に入ってきたのは英語の雑誌らしき印刷物です。ものすごく遊びがあるというわけではないですが、こういったアカデミックなものを評価するのはここ数年の傾向な気がします。
10年くらい前はちょっと奇抜というか、タイポグラフィなのかな?というものも多くてもやもやした気持ちがありました。

優秀賞 : フォントもレスポンシブルの時代

今年のグランプリは Michael Kelly (イギリス)さんの「VR」タイプデザインでした。大学の論文のために作ったというフォントだそうですが、教授からフォントとして完成させたると良いとのアドバイスがあり、その後フォントのみを作り上げたそうです。こちらは文字の一部が延びたり縮んだりすることで可変可能なフォントとなっているようです。論文自体を読んでないのでどのような考察に基づいたのかまではわかりませんが、可変できるデザインというのはここ最近の傾向として出てきているなあと思いました。

写真を撮り忘れましたが、本人のHPに動画が上がっているのでそちらで確認できます。

https://michaelkelly.studio/VR-A-Typeface

Apple、Google、Microsoftが共同で開発しているフォントウェイトが可変するVariable Font(可変フォント)がありますが、こちらは太さの可変ということで、実用的なものとなっています。

PCから腕時計まで様々なサイズのデバイスが身の回りに溢れる時代になって臨機応変に変えられるレスポンシビリティがフォントにも求められるということでしょうか。自由すぎてデザイナーにとってはフォント指定が難しくなりそうではありますが。

欧文にもアジアの経済力が大きくなっている影響あり?

雑誌の中で縦に英語を組むために開発したという縦組用欧文フォント「NYT MAG OLYMPIC FONT*」も非常に興味深いものでした。日本語は本来縦書きでしたが西洋化していく過程で横書きに対応しヒラギノや小塚といった横書きでも見やすくなるように作られたフォントが登場してきましたが英語の縦書きというのは今まで聞いたことがありません。

強引にアルファベットを回転させて使用することは日本の雑誌などでは行われてきましたが、あくまで日本のローカルな文化圏のことという具合です。
それがThe New York Times Magazineでデザインするために、イギリスのデザイナーが縦書き欧文フォントを作るというのは、まさに中国を筆頭にアジアの文化や経済が世界に与える影響力の大きさを写しているようでもありました。

実際には読めためというよりは飾りのレベルですが20年後、30年後には縦書き英語も一般的になっているのかもしれないとワクワクさせるインパクトがあります。

書体からデザインの歴史を学ぶ

岩井悠さんの新書体「ひです」はキリシタン版『ひですの経』の古活字をデジタルフォントとして復刻したそうです。
宗教的な思いなどがあるのかなと、ちょっと身構えてしまいますが、活版印刷術を日本に輸入したコンスタンチノ・ドラードという人物への敬意から作成とのことです。

コンスタンチノ・ドラードについて検索すると、16世紀頃に活版印刷機を使って本を発行しているようですが、この時代に日本語の版が存在していた、(というよりは導入された)ことに驚きました。

アイデアの面白さで勝負されている様々な判子を使って絵をかいたり、世の中のパッケージのフォントを独自の世界観で再デザインしたものなど、なるほどなあと唸らされるデザインも並んでいました。

ユニークなアイデアでホッと一息つく

下は前田麦さんという札幌で活動しているアーティストによる作品です。様々な判子が押されてロボットのように見えたり、ドラえもん?のように見えたりととてもユニークです。普段から判子を集めているのでしょう。判子のバリエーションもとても豊富です。

一通り一回を見回してみると英語と中国語が非常に多いことに気がつきました。 今や中国のサービスや製品が一般的に売られていて、海外からの旅行者の数も増え続けているので当たり前といえば当たり前な気もしますが。 とはいえ東京TDCと、「東京」をうたっている賞だけに日本のデザインがもう少し多くても良いような気はしました。

これが今の日本のグラフィックデザインの勢いだとすると、一デザイナーとしてがんばらないといけないなと身が引き締まる思いです。